株式会社シベスピ 従業員ブログ

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韻を踏むということ-後編-

お疲れ様です。岡崎です。
今更積んでいたゼノブレイドを始めました。
面白過ぎて毎日ひっくり返りながら生活をしています。

さて、今回も押韻についての続き、もといこれが最終回になります。
前回から私も自身の考えのアップデートを行ったので、
前回までのおさらいをしながら、改めてお話をしていければと思います。

1.ここがつらいよ日本語押韻

前回まで、日本語は母音+子音の種類が少ないために押韻には向いていない、
という話をしてきました。
ここに付け加えて、
以下の2つの特徴が「日本語は押韻が難しい原因」となっていました。
(1)日本語は拍の言語
(2)日本語には母音が多い

(1)日本語は拍の言語

拍とはリズム上の単位のことですが、一音ごとが同じ長さを持ちます。
どういうことかというと、「お父さん」であれば
「お・と・う・さ・ん」で5拍となるわけです。
日本語は、従来この「拍」でリズムをとることが多かったわけです。
例えば短歌や俳句も、この拍の単位でリズムをとっていることがわかります。

一方、英語のリズムの基本的な単位は「音節」です。
音節は、母音を中心として音を区切り、
複数の音を同一の発音の区切りとする場合もあります。
先ほど例に挙げた「お父さん」だと、
「お・とう・さん」と3音節になります。

ここで重要になってくるのが、
「日本語(拍)のほうが言葉に対する音の数が多い」ということです。
押韻というものは、似た響きの言葉を繰り返すことでリズム感を生む歌唱法です。
つまり、「音の数が多ければ多いほど響きを似通わせる難易度が上がる」ことになります。

(2)日本語には母音が多い

なぜ日本語の方が言葉に対する音の数が多いのか、という話にもつながりますが、
日本語は基本的に子音の後に母音が来る言語です。
一方、英語は子音の後に子音が来ることもよくあります。
例に挙げると、castle(キャッスル)やChristmas(クリスマス)などがあげられます。
つまり、日本語は英語に比べて、一単語に対する母音の数が相対的に多くなってしまいます。


これらの二つの特徴により、
日本語はただでさえ拍の単位により音が多くなりがちなのに、
母音の数も英語と比べて多いがゆえに更に音の多さに拍車をかけてしまっています。
だから、日本語は押韻がしづらい上に、
一音程度押韻した程度ではリズム感が生まれにくいのです。

2.現代日本語ラップの押韻手法

以上が、「従来の日本語」から観測した「ラップとの相性の悪さ」です。
そんな状況から、日本語ラップはどのように進化を遂げ、
押韻をジャパナイズしたのか。
前回の終わりに私は以下のように分類わけしました。

(1)文章単位で母音を合わせる
(2)イントネーションやアクセントをあえて崩し、響きを似通わせる
(3)短い間隔で同じ母音を繰り返す
(4)「語感踏み」

この分類、自分でしておきながらなんだかしっくりこなかったので、
私の中で再編してみました。
結果として、大きく二つの分類にわけられることがわかりました。

(1)押韻の解釈拡大
(2)日本語を押韻用にアジャスト

(1)押韻の解釈拡大

従来の押韻は子音+母音で文末(小節末)の音の響きを合わせるものでしたが、
これまで説明した通り、そもそも子音+母音では押韻しづらいし、したとしても効果そのものが薄い。
そこで日本語ラップは、子音+母音ではなく、母音を複数音合わせることで、本来の押韻とは異なるリズム感を生むようになったのです。
例えば「リンゴ」と「ヒント」のように、拍の単位のままで母音を複数音合わせる、といった独自の押韻を生み出うようになりました。
ただ、単語単位で母音を複数音合わせるのにも限界があります。
そこでさらに言葉を組み合わせ、「文章単位で母音を合わせる」という手法も編み出していきました。
助詞や助動詞が比較的柔軟に使用できるという日本語の利点を十分に生かした手法ですね。

えー、あえて皆さんがわかりやすい実例を挙げると、以下のような文章がわかりやすいかと思います。

「アルミ缶の上にあるミカン」

…そうです、ダジャレです。
ダジャレは子音も合わせた同音異義文になっていることが多いので、
押韻の方が敷居は低いですが、原理は同じです。

このように「文章単位で韻を踏む」、という価値観が確立されると、
今度は「文章単位である程度響きがあっていれば、完璧に母音があっていなくても押韻と捉える」
という、「語感踏み」という概念が誕生します。
youtu.be
ステージ向かって左側で飛び跳ねながらラップをしている人は「韻マン」というふざけた名前のラッパーですが、
その名前通り韻を踏むことを得意とし、中でも「語感踏み」の開祖というべき存在でもあります。

まじで「俺のこのステージ」
上がりながらどこまでいける「公式レフェリー」
無し ちなみに言う「俺の韻レベチ」
Come back again「ホメオティック遺伝子」

上記動画の一部分を抜粋し、鍵かっこで囲んでいる部分が語感踏みしている部分です。
見ればわかる通り、完璧に母音があっているわけではないのですが、
頭の1音と文章末の2音は母音を合わせていることがわかります。
もちろんこれだけではリズム感は生まれにくいので、
歌い方や言葉のタイミングを合わせて耳になじませているわけです。

(2)日本語を押韻用にアジャスト

押韻のジャパナイズとして、手法としてもう一つ挙げられるのが、
「日本語を押韻しやすく変えてしまおう!」というものです。
もともとラップは英語圏で生まれた歌唱法。
であるならば、日本語を英語っぽく使ってしまえば万事解決だ!
という苦肉の策なのか強行突破なのかよくわからない策ですが、
それでも現状の日本語ラップではしっかりと技術として馴染んでいます。

具体的には、以下の二つの手法が挙げられると考えています。
①日本語の「音節化」
②イントネーション、アクセントを変化させることによる「強制的な語尾配置」

①日本語の「音節化」

これはもうシンプルに「わざわざ拍の発音でやらなくても良くね?」という、
押韻する上で邪魔な発音は省いてしまおう、というやり方です。
英語でいう「リダクション」を、日本語でも行ってしまおう、というものですね。
このリダクションはどのような基準で行われるかというと、
「自分が押韻したい部分以外の発音を弱くして、違和感を少なくする」という、
発話者の思想準拠のとんでもない自由度となっています。
先ほど紹介した「語感踏み」も、
音が異なる中で響きを似せるためにこのリダクションを用いたりしています。
じゃあこのリダクションの代表例は何なのか、という話ですが、
この技術は現在のラッパーの標準装備となっており、
普通にJ-HIPHOPを聴いていればすぐに出会えるものかなと思います。
個人的なおススメで言うと、
Bonberoというラッパーのリダクションはかなりオシャレだなと思うのでよかったら聴いてみてもらえると嬉しいです。

②「強制的な語尾配置」

強制的な、なんて言葉を使ってしまうとなんだか仰々しく感じてしまいますが、
要は「ここで韻をふみましたよ~」と分かりやすくリスナーに伝えるために、
アクセントやイントネーションを従来のものとは変化させることを指します。
英語でも日本語でも変わらず、ラップの楽曲を聴いていると、
響きだけじゃなく「あ、ここで韻踏んでるんだろうな」というような「強勢」を感じることがあります。
それを文章の流れで自然に作ることができれば巧みと言えるんでしょうが、
前述のとおり従来の日本語ではただ普通に押韻しても効果が薄いので、
押韻の効果を助長させるためにアクセントやイントネーションをあえて崩すことがあります。
代表例としては、個人的には餓鬼レンジャーを推したいです!
www.youtube.com

まるで泉ピン 俺は伊豆に新
居立つ五木ひ ろしのいぶし銀
それか渥美き よしの眼差し
のよな作詞技 術と輝き
Booyaka 2 say タイトルコール
この稼業 いわゆる体力勝負
死ぬまで信じて大丈夫よ
でっかい口叩くのもMy jobよ

こちら、餓鬼レンジャーポチョムキンのリリックの抜粋となっていますが、
五木ひろしや渥美きよしをとんでもない場所で切り分けて、強制的に押韻を強調しています。
リリックだけ読むと無茶苦茶に見えるんですが…実際聴いてみてください。
耳心地が良すぎて、これが超絶技巧であることに疑いの余地はなくなるでしょう。

3.まとめと余談

まとめ

ここまで紹介した日本語ラップの技法は、それぞれが独立しているのではなく、
複合的に利用されることで各ラッパーの「色」へと昇華を遂げています。
それぞれにもっとわかりやすい例を挙げることができればよかったのですが、
現代のラッパーはそのスタイルが多種多様過ぎて、ステレオタイプと言えるラッパーは一人としていません。
これまでのブログを読んで、少しでも押韻やラップについて興味がわいた方がいれば、
聴いてみていただけると幸いです。

余談

もしここまでの話を聞いて
「…で、押韻とか言ってるけど結局ダジャレと何が違うの?」
と思っているのであれば、このバースを送りたいと思います。

ダジャレとライムの違いも分かんねぇのか?
「布団が吹っ飛んだ」 これはダジャレだ。
「布団が俺に吹く強烈な追い風に乗って吹っ飛んだ」 これはライムだ。
わかるか?ライムっていうのは踏んでる部分だけじゃない
そこまでのプロセスに全てを賭けなさい
分かってんだろ?モンスターに戻って来い!
ついで今吹っ飛んだ布団も取って来い
By FORK

フリースタイルダンジョン復活しないかなぁ